食事

“におい”で健康がわかる?嗅覚と代謝の意外な関係

「最近、においを感じにくい気がする」 「香りの好みが変わった」 そんな小さな変化が、実は体のサインかもしれません。

私は管理栄養士として病院に勤務し、また自分自身も鼻の手術で入院した経験があります。 その中で、“におい”が健康や食欲と深くつながっていることを身をもって感じてきました。

鼻の手術後、しばらくの間まったく匂いがしなくなり、食事の味が驚くほどわからなくなったのです。 「味って、舌だけで感じているわけじゃないんだ」と痛感しました。 匂いがないと、食べ物はただの“食感の塊”になってしまう。 食べる楽しさが失われたように感じました。そして、鼻のガーゼが取り外された時に最初に摂りたかったものは、香りの良いコーヒーでした。

一方、病院勤務時代には、病気特有の匂いを感じる場面が何度もありました。 肝臓疾患の患者さんの甘いような独特の体臭、腎不全の患者さんのアンモニアに似た匂い…。 医療現場では、匂いが“体の状態を知らせるサイン”として役立つことも多いのです。

こうした経験から、私は「嗅覚は健康のバロメーターだ」と強く感じるようになりました。 そして近年の研究でも、嗅覚と健康の関係はますます注目されています。

嗅覚低下は「認知症リスク」の早期サイン

嗅覚は脳の海馬や扁桃体と直結しており、記憶や感情と深く関わっています。 そのため、アルツハイマー病の初期段階では、記憶力より先に嗅覚が落ちることが多いとされています。

実際、以下のような研究があります。

  • 嗅覚低下は将来の認知症発症リスクを高める
  • 嗅覚テストは認知症の早期発見に有効  

つまり、「においがわかりにくい」は脳の健康チェックの一つなのです。

特に50代以降は、ホルモン変化やストレスで嗅覚が変化しやすい時期。 「なんとなく変だな」と感じたら、体のサインとして受け止めることが大切です。

嗅覚は「食欲」と直結している

私が手術後に痛感したように、嗅覚は食欲と密接に関わっています。 香りを感じることで脳が「食べる準備」を始め、唾液や消化酵素が分泌されます。

しかし、嗅覚が低下すると…

  • 食事の満足感が下がる
  • 味を濃くしがち
  • 食べ過ぎにつながる
  • 甘いもの・脂っこいものを求めやすくなる

という傾向があります。

嗅覚が弱い人は味覚も鈍くなりやすい ことがわかっています。

逆に、香りをしっかり感じられると、 少量でも満足しやすく、食べ過ぎ防止に役立つことがわかっています。

嗅覚と「体重変化」の意外な関係

最新の研究で特に注目されているのが、 嗅覚と代謝の関係です。

カリフォルニア大学バークレー校の研究では、 嗅覚を失ったマウスは、同じ食事量でも体重が増えやすいことが示されました。

理由はこう考えられています。

  • においが弱いと、食事による代謝(食事誘発性熱産生)が低下
  • エネルギー消費が落ちる
  • 脂肪が蓄積しやすくなる

人間でも、 嗅覚低下と体重増加の関連が報告されています。

つまり、 嗅覚は“代謝のスイッチ”でもあるということ。

「最近太りやすい」「食べていないのに体重が増える」 そんなとき、嗅覚の変化が関係している可能性もあります。

嗅覚が落ちる原因は?

嗅覚はとても繊細な感覚で、さまざまな要因で変化します。

  • 加齢
  • ストレス
  • 睡眠不足
  • 鼻炎・副鼻腔炎
  • ウイルス感染後(コロナ後遺症も含む)
  • 喫煙
  • 更年期のホルモン変化

特に更年期では、 エストロゲン低下 → 嗅覚の感度が変わる という報告もあり、女性は変化を感じやすい時期です。

今日からできる「香りのセルフケア」

嗅覚は鍛えられる感覚です。 医学的にも「嗅覚トレーニング」が推奨されています。

ここでは、生活に取り入れやすい方法をご紹介します。

① 4つの香りを“毎日嗅ぐ”

嗅覚トレーニングの基本は、 異なる香りをゆっくり嗅ぐこと

例:

  • レモン(柑橘)
  • ラベンダー(フローラル)
  • ユーカリ(ハーブ)
  • クローブ(スパイス)

1日2回、10秒ずつ香りを感じるだけでOK。

② 食事の香りを意識する

  • 温かい料理を選ぶ
  • 香りの強い食材(ハーブ・柑橘・スパイス)を使う
  • 食べる前に深呼吸して香りを感じる

満足感が上がり、食べ過ぎ防止にもつながる

③ 香りでストレスケア

ストレスは嗅覚を鈍らせる大きな要因。 香りは自律神経に直接働きかけるため、

  • リラックス
  • 睡眠の質向上
  • 食欲の安定 に役立ちます。

おすすめ:

  • ラベンダー
  • ベルガモット
  • ゼラニウム
  • ローズマリー(集中力UP)

まとめ:嗅覚は“健康のセンサー”

嗅覚は、「脳、食欲、代謝、体重、ストレス」と密接につながる、非常に重要な感覚です。

香りを味方につけることで、 脳の健康、食欲の安定、代謝のサポートにつながります。

今日の食事から、今日の深呼吸から、 “香りのセルフケア”を取り入れてみてください。

参考

  1. 日本鼻科学会(2020)『嗅覚障害診療ガイドライン』金原出版  
  2. 高橋雅子(2019)『においと脳の科学』講談社ブルーバックス
  3. Devanand DP, et al. Olfactory identification deficits and increased mortality in the community. Annals of Neurology, 2015.
  4. Olofsson JK, et al. Olfactory dysfunction predicts cognitive decline and neurodegeneration in the brain. JAMA Neurology, 2016.
  5. Riera CE, et al. The sense of smell impacts metabolic health and obesity. Cell Metabolism, 2017.
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今井久美

今井久美

食事で未来を変える栄養プランナー

管理栄養士。長年にわたり、病院やクリニックでの栄養相談・保健指導に従事。糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病改善、予防のための減量など、個別の状態に寄り添った栄養指導を得意とする。また、栄養士・管理栄養士を養成する専門学校の教員として14年間勤務し、後進の育成にも尽力。「今よりもっと健康で美しく」をモットーに、食事を通じて心と体の両面から健康をサポートしている。

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