
秋の農産物直売所に立ち寄ると、小袋に入ったぎんなんが目に入ります。
すぐに使うというより、私にとっては“年末のための実り”。
毎年この時期になると、ぎんなんの下処理をすることから少しずつ年末へと気持ちが向かっていきます。
いちょうの木になるぎんなん(銀杏)は、街路樹としてもおなじみですが、実が落ちるとあの独特のにおい…。
そのため、近年では他の樹種に植え替えられている地域もあるようです。
とはいえ、晩秋のいちょう並木が黄色く染まり、足元に“金色のじゅうたん”が広がる光景はやはり特別で“冬への入り口”を感じます。
そんな風景を思い浮かべながら、今回はぎんなんの下処理と保存の手しごとをご紹介します。
茶碗蒸しでも煮物でも…ぎんなんの下処理

(材料)
・ぎんなん お好みの量
・湯
(道具)
・ぎんなん割り(またはペンチ)
・穴じゃくし(穴の開いたおたま)
・鍋
(作り方)
1,殻を割る
ぎんなん割りまたはペンチで硬い殻にひびを入れ、指で殻を外す。
角を軽く挟んで力を入れるのがポイント。
中身が取り出しにくい場合は別の角度から軽く挟むときれいに割れます。
2.ゆでる
鍋にぎんなんがかぶる程度の水を入れ、火にかけます。
3.薄皮をこする
沸騰してきたら穴じゃくしの底でやさしく全体をこすります。
ぎんなんがきれいな翡翠色に変わり、薄皮も自然に取れていきます。

4.仕上げる
数分続けたら火を止め、ざるにあげて残った薄皮を手で丁寧に取り除きます。
5.保存する
粗熱が取れたら保存袋に入れて冷凍庫へ。
色はやや黄色味を帯びますが、風味はほとんど変わりません。
年末までしっかり保存できます。

☆ぎんなん割りは専用の器具をおすすめします。ペンチだと力加減が難しく、専用のものは実をつぶさず効率よく割れるので、作業が格段に楽になります。

ぎんなんをおせちに用いる意味~松葉ぎんなん~
ぎんなんは、おせち料理では「煮しめ」などの飾りとして彩りを添える存在です。
漢字で「銀杏」と書くのは、種子の白さと形がアンズ(杏)に似ているため。
また、いちょうの別名「公孫樹(こうそんじゅ)」には、“父(公)が植え、孫の代で実がなる”という意味があります。まさに、時をつなぐ木として縁起の良い植物なのです。
おせち料理に込められた“願い”
おせちの食材にはそれぞれ意味があります。
黒豆には「まめに働き健康に」、
田作りには「豊作を願う」、
数の子には「子孫繁栄」――。
ぎんなんも「長寿」や「繁栄」の象徴とされています。
こうして昔の人々は、食材に願いを託し、日々の暮らしを丁寧に積み重ねてきたのですね。
ぎんなんは“松葉ぎんなん”となり煮しめの上に

冷凍しておいたぎんなんは、年末に松葉ぎんなんとして登場します。
門松用の松から少しだけ葉を取り、洗って水気を切り、
その松葉にぎんなんを刺すと、さくらんぼのようなかわいらしい姿に。
市販の真空パックの茹でぎんなんはぎんなん同士がくっつき形が崩れていることが多く、この松葉ぎんなんにはやや不向きです。
だからこそ、秋のうちに下処理をして冷凍しておくことが大切。
一度、ゆでずにかたい殻ごと冷蔵保存に挑戦した年もありましたが、
年末に使おうと割ると乾燥が進んで実がしぼんでしまっている粒が多く出てしまい…。
以来、冷凍保存が私の年末準備の定番になっています。
伝統的なおせちは日本の食文化の象徴
今は、伝統おせち以外のおせちなどバラエティに富み華やかなおせちがたくさん販売されています。
昔のように“保存食”としての意味合いは薄れましたが、
やはり、日本の食文化が最も色濃く残る季節の料理だと感じます。
完璧を目指すより“できたらやろう”くらいの気持ちで続けるのがいちばん。
黒豆のつややかさを見て手に取りたくなったり、
京にんじんやくわいを見つけて「そろそろおせちの季節だな」と感じたり。
そんな小さな季節の手しごとが、
暮らしに穏やかなリズムを与えてくれる気がします。
茹でたぎんなんの翡翠色を見ると、秋の空気の澄んだ空気を感じます。
年末の台所にその色を思い出しながら、「また今年もこの季節が来たな」と思うのです。
参考出典:日本大百科全書(ニッポニカ)『イチョウ』項/農林水産省「食文化ミュージアム」『おせち料理のいわれ』/NHK「みんなのきょうの料理」『ぎんなんの下ごしらえ』/花言葉辞典『ぎんなん(いちょう)』項/『日本食文化辞典』(農文協, 2018)
コメント