食事

本来冬は痩せるはず… 冬太りの原因と対策

毎年夏は痩せて、冬に太ってしまう人がいます。実は、冬は痩せるはずなのです。人間の体は恒温動物であり、外気温が下がると体温を維持するためにエネルギー消費が増加します。これを寒冷誘発性熱産生(cold-induced thermogenesis)と呼びます。体では次のような機能が働きます。

  • 褐色脂肪組織の活性化:褐色脂肪はミトコンドリアが豊富で、脂肪を燃焼して熱を産生します。寒冷刺激により交感神経が活性化し、ノルアドレナリンが分泌され熱を生みます。これにより基礎代謝が上昇します。
  • 筋肉によるシバリング(震え):寒さで筋肉が小刻みに収縮することで熱を発生させます。これもエネルギー消費を増加させます。

このため、冬は同じ運動をしても消費エネルギーが増え、減量に適した季節といえます。しかし、冬に太ってしまうには、摂取エネルギーの増加も起こりやすくなるからです。

実は、冬に油脂の多いものが欲しくなる

一方で、寒い季節になると脂質の多い食べ物を欲する傾向があります。これは生理的・心理的要因によるものです。

  1. エネルギーの高い食品を求める:寒冷環境では体温維持のためにエネルギー消費が増えるため、脳は効率的にカロリーを補給できる脂質を欲します。脂質は1gあたり9kcalと高エネルギーで、糖質やタンパク質の約2倍です。
  2. セロトニン分泌の低下と快楽追求:冬は日照時間が短くなり、脳内のセロトニン分泌が減少します。セロトニンは気分安定に関わる神経伝達物質で、減少すると甘いものや脂っこいものを食べてドーパミンを得ようとする傾向が強まります。
  3. 体温維持のための脂肪蓄積:動物は進化する過程で、寒冷期には脂肪を蓄えることで生存率を高めてきました。その名残として、冬になると脂肪蓄積を促すホルモン(レプチンやグレリン)のバランスが変化し、食欲が増すと考えられています。

冬太りの原因

冬は減量に適した条件があるにも関わらず、太りやすい要因がいくつかあります。

  1. 摂取エネルギーの増加:脂質や糖質の多い料理(鍋のしめの雑炊やラーメン、揚げ物、クリスマスや正月料理)を食べる機会が増えます。
  2. 活動量の低下:寒さや悪天候で外出や運動が減り、消費エネルギーが低下します。室内で過ごす時間が増えることで座位行動が長くなり、基礎代謝も下がりやすくなります。
  3. アルコール摂取の増加:忘年会や新年会などで飲酒機会が増え、アルコール由来のカロリー(1gあたり7kcal)や食欲増進効果が冬太りを助長します。
  4. ホルモンバランスの変化:冬はメラトニン分泌が増え、睡眠時間が長くなりやすい一方で、活動量が減るため消費エネルギーが不足します。さらに、グレリン(食欲促進ホルモン)が増えやすく、レプチン(満腹ホルモン)の作用が弱まる傾向があります。

冬太りを防ぐ対策

1. 食事面の工夫

  • 脂質の質を選ぶ:飽和脂肪酸の多い揚げ物や肉脂より、魚のEPA・DHAやオリーブ油など不飽和脂肪酸を選ぶ。
  • 野菜を増やす:鍋料理では野菜を多めに入れ、汁物は減塩に。食物繊維が満腹感を高め、血糖上昇を緩やかにする。
  • 間食の工夫:ナッツやヨーグルト、果物など適量で満足できる食品を選ぶ。

2. 運動面の工夫

  • 屋内運動を取り入れる:寒さで外出が減る分、室内で筋トレやストレッチを習慣化。
  • 寒冷刺激を活かす:寒い環境でのウォーキングは産熱が増え、脂肪燃焼効率が高まる。

3. 生活習慣の工夫

  • 睡眠の質を整える:十分な睡眠はレプチン分泌を促し、食欲を抑える。
  • アルコールを控える:飲酒機会が多い季節だからこそ、量を減らす工夫が必要。
  • 日光を浴びる:セロトニン分泌を促し、過食を防ぐ。

まとめ

冬は寒冷刺激によって産熱が増し、減量に適した季節です。しかし、脂質の多い食べ物を欲しやすく、活動量の低下や飲酒増加も重なり「冬太り」が起こります。食事の工夫や運動、睡眠、日光を浴びることで冬、でも健康的に減量することはできますよ。

参考文献・参考HP

  1. 東京海洋大学 長阪玲子「環境条件が導く食欲および食嗜好」
  2. 銀座泰明クリニックHP「食欲の脳科学」
  3. 名古屋大学 医学部研究発表「暑さと寒さから逃げるための脳の神経回路は異なることを発見」
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今井久美

今井久美

食事で未来を変える栄養プランナー

管理栄養士。長年にわたり、病院やクリニックでの栄養相談・保健指導に従事。糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病改善、予防のための減量など、個別の状態に寄り添った栄養指導を得意とする。また、栄養士・管理栄養士を養成する専門学校の教員として14年間勤務し、後進の育成にも尽力。「今よりもっと健康で美しく」をモットーに、食事を通じて心と体の両面から健康をサポートしている。

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