「健康診断の数値が、年々悪くなっている」「食事量は変わらないのに、お腹周りだけ太ってきた」
こうした50代特有の悩みに対し、内科医の視点から提示できる最も確実な解決策が「ウォーキング」です。
今回は、用賀きくち内科 肝臓・内視鏡クリニックの菊池真大院長に、歩くことが私たちの血管、代謝や脳にどのような「劇的な化学反応」を起こすのか、そのメカニズムを解説してもらいました。(文・菊池真大院長/編集・飯田みさ代)
歩く量よりも「質」が重要
「1日8000歩」という目安をよく耳にしますが、内科医として強調したいのは、量よりも「質」です。ただ漫然と歩くのではなく、質の高い歩行を行うこと。それは、筋肉や骨だけでなく、内臓や血管、代謝機能を底上げする「副作用のない薬」を飲むことと同義と言っても過言ではありません。
具体的に、体の中で何が起きているのか。専門医の視点から、その医学的根拠を4つのポイントで紐解いていきます。
【血管】天然の降圧剤「NO」が出る
歩き始めて心拍数が上がると、全身の血流が良くなります。この時、血管の内側では非常に重要な反応が起きています。
血流が増して血管の壁(内皮細胞)に摩擦刺激が加わると、「一酸化窒素(NO)」という物質が放出されます。このNOには、血管を拡張させてやわらかくする作用があり、血圧を自然に下げる効果があります。
つまり、歩くことそのものが、硬くなった血管をしなやかにするメンテナンス作業になるのです。
【代謝】「内臓脂肪」という悪玉臓器を燃やす
私が専門とする消化器・肝臓の分野で注目するのは、血糖と脂肪への効果です。食事で摂った糖を最も多く消費してくれる臓器は、実は「筋肉」です。歩行によって筋肉を動かすと、細胞への糖の取り込みがスムーズになり、インスリンの効き(インスリン抵抗性)が改善します。
また、更年期世代が気にする「内臓脂肪」は、単なるエネルギーの貯蔵庫ではありません。放置すると体内に炎症物質をばら撒く「悪玉臓器」のような側面を持っています。有酸素運動であるウォーキングは、脂肪を燃焼させてこの「悪玉」を減らし、体内で密かに進行する「慢性炎症」を食い止めることにもつながります。
研究では、歩くタイミングは「食後1時間以内に、10〜15分程度の歩行」が食後高血糖(血糖値スパイク)を抑制できると報告されています。食後に少し歩くことも、糖尿病の予防や管理の点から有効です。

【筋肉】カギは「腸腰筋」にあり
「筋肉」というと、ジムで鍛えるムキムキの体を想像しがちですが、医学的に健康維持に不可欠なのは「インナーマッスル」です。
ここでキーワードとなるのが「腸腰筋(ちょうようきん)」です。これは上半身と下半身をつなぐ唯一の筋肉であり、重力に抗って背骨を立てるための重要な抗重力筋です。
ウォーキングで、この深層筋肉(腸腰筋)をしっかり使うことで姿勢が安定し、基礎代謝が高まります。ただ痩せるだけでなく、「太りにくく、転倒しにくい体」を作るためのエンジンが、この腸腰筋なのです。
【脳・メンタル】「海馬」の萎縮を防ぐ
ウォーキングの効果は、首から下の臓器にとどまりません。脳への医学的影響も明確です。
歩くことは、脳の記憶の中枢である「海馬(かいば)」の萎縮を抑え、認知機能の低下を防ぐことが報告されています。
これには、血流改善や「神経栄養因子(BDNF)」の増加が関与していると考えられています。また、リズム運動はセロトニンやドーパミンの分泌を促し、ストレスホルモンを下げるため、メンタルの安定にも直結します。
効果を最大化する「インターバル速歩」
血管・代謝・筋力・脳の効果を最大化するために、ぜひ取り入れてほしいのが「インターバル速歩」です。
【インターバル速歩のやり方】
数分間、「速歩(さっさか歩き)」と「ゆっくり歩き」を交互に繰り返してください。
【医学的メリット】
心肺機能に負荷がかかり、脂肪燃焼効率が高まるとともに、血管への刺激(NOの放出)も最大化されます。
内科医としての「歩行」の意義
ウォーキングは、特別な道具も環境も必要ありません。50代からの不調改善に向けて、最も手軽で効果を感じやすい健康法です。何よりも、日常生活の中で自然に取り入れられる点が、医学的にも非常に価値が高い理由です。
そろそろ暖かくなる季節。無理せず長く続ける道を、一歩踏み出してみませんか。