私は管理栄養士として人の食と健康に関わり、さらにペット栄養管理士として動物の栄養にも携わってきました。その両方の視点を持つ私にとって、日々の暮らしの中で最も大きな学びを与えてくれる存在が、17歳になる愛犬です。高齢犬と暮らすことは、食や栄養の重要性を改めて深く実感する機会となり、人と動物の健康を支える「食の力」を強く意識させてくれます。
高齢犬に訪れる変化と食事管理の工夫
犬の寿命は人間より短く、加齢による変化が目に見える形で現れます。食欲の低下、消化機能の低下、関節の動きの鈍さなどに応じて、食事の内容や与え方を工夫することが生活の質を左右します。これは人間の高齢者に対する栄養管理とも共通しています。
そこで必要なのが食欲や体調の変化に気づく観察力です。犬は言葉で不調を訴えられないため、食欲や体重、毛並みなどの小さな変化を観察することが重要です。これは人間においても同じで、食事や体調の変化を見逃さないことが健康管理の第一歩になります。
ペットの食事が家族の食生活を見直すきっかけにも
愛犬の食事を考える過程で、家族の食生活も見直すようになりましたという人もいます。安全で栄養バランスの良いフードを選ぶことは、人間の食事にも直結し、「命を支える食」の共通性を意識するようになります。ペットを飼っている人に健康な人が多いことは、生活習慣が規則正しくなる、散歩に行くようになるだけでなく、自分の食生活にも気を配るようになるからではないでしょうか。
高齢期に必要な栄養素は人も犬も共通
筋力維持のためのタンパク質、骨や関節を守るカルシウムやビタミンD、免疫力を支える抗酸化物質など、必要な栄養素は人も犬も共通しています。違いは量や消化吸収の仕組みですが、「年齢に応じた栄養の最適化」という考え方は同じです。
また、食事は栄養補給だけでなく生活の楽しみでもあります。食事は単なる栄養補給ではなく、生活の楽しみであり心の支えです。高齢犬にとって「食べる喜び」を守ることは生活の質を高める要素であり、人間にとっても同じです。栄養学的な正しさだけでなく、楽しさや満足感を大切にすることが健康を支えます。
栄養状態が良いと治療に積極的になれる
高齢であっても栄養状態が良い人や動物は、病気になった時に治療に積極的に取り組めます。栄養状態が良好であると体力や免疫力が保たれ、治療のストレスや副作用にも耐えやすくなります。逆に栄養状態が悪いと治療そのものが負担となり、継続が難しくなることもあります。実際に、うちの犬も16歳以降に口内の腫瘍を切除する手術を3回受けました。麻酔のリスクもありますが、栄養状態が良いことが手術することを決意できた理由です。栄養は病気の予防だけでなく、治療を支える力でもあるのです。
まとめ
17歳の愛犬と暮らす中で、私は「食べることの尊さ」を日々学んでいます。食事は命をつなぐだけでなく、生活の質を左右し、心を支えてくれます。また、命の大切さ、食べ物は命をいただいていることも再認識するきっかけにもなります。ペット栄養管理士として犬の食を考えることは、管理栄養士として人の食を考えることと直結し、両者は互いに補い合う学びとなっています。
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