高血圧のリスクは、年齢や生活習慣だけでなく、「性格」からも予測できることが、早稲田大学などの研究グループによる日本人を対象とした大規模調査で明らかになりました。
世界の成人に3人に1人が高血圧
高血圧は、心疾患や脳卒中など命に関わる疾患の大きな要因であり、世界の成人の約3人に1人が患っているとされています。こうした病気のリスクには、年齢、喫煙や肥満などの要因のほか、性格特性、社会経済的地位、ストレスなどの心理社会的な要因も影響しています。
高血圧は性格、社会的地位なども関係
そこで、性格の中でも「ビッグファイブモデル」と呼ばれる5つの性格特性(誠実性、協調性、外向性、開放性、神経症傾向)のうち、どの性格が高血圧の発症や持続と関わるかを研究。その結果、「誠実性」が高い人は高血圧のリスクが低く、「開放性」が高い人は高血圧が持続するリスクが高い傾向があることが分かりました。
「誠実性」とは、自己管理能力、計画性、責任感、真面目さなどを表す性格特性。一方、「開放性」とは、好奇心、知的好奇心、想像力、芸術的感受性、新しい経験やアイデアへの受容性などを表す性格特性のこと。
本研究は、2019年から2022年にかけて、全国の成人7321人を対象にした4年間の追跡調査データを分析したもので、この成果は、7月24日に国際学術誌「BMC Psychology」のオンライン版で発表されました。
調査の方法と詳細
調査は、NTTデータ経営研究所が保有する「ヒューマン・インフォメーション・データベース」を活用し、2019年から2022年まで、オンライン調査で収集したデータを分析。高血圧の状態は以下の2つに分類されました
■新規発症高血圧:2019年には高血圧でなかったが、2020~2022年に発症した人
■持続性高血圧:2019年に高血圧とされ、2022年までその状態が続いた人
分析の結果、以下のような傾向が明らかになりました。
・誠実性の高さは、新規発症・持続のどちらにおいても、高血圧のリスクを下げる
・開放性の高さは、持続性高血圧のリスクをやや上げる
その他、男性や年齢が高い人、収入が高い人にも高血圧リスクが見られました。
誠実性の高さは高血圧のリスクを下げる
「誠実性」が持続性および新規発症の両方の高血圧に対する保護因子として現れたことは、誠実な個人が健康増進行動を取りやすいことを示す過去の研究と一致しているといいます。さらに、効果的な情動調整能力を併せ持つ誠実な個人は、高血圧リスクを効果的に軽減できる可能性があります。
つまり、高血圧になったとしても、減塩、バランスの取れた食事を意識、適度な運動を習慣化など真面目に取り組む人は血圧を下げる効果が期待できるということです。
一方で、「開放性」が持続性高血圧のリスク増加と関連したことは、心血管の健康に対する保護的な役割を示唆した先行研究とは異なる結果であり、開放性が複数の側面を持ち、それぞれ異なる影響を持つ可能性を示唆しています。
研究者のコメント
研究を主導した早稲田大学の小塩真司教授らは、次のように述べています:
「高血圧をはじめとする生活習慣病の予防は、食事や運動といった行動面に注目が集まりがちで、その背景にある一人ひとりの心理的な特性は、見過ごされやすいのが現状です。本研究が明らかにした、性格という個人の特性が長期的に健康と関わるという事実は、これまでの健康観に新たな視点をもたらす、価値ある発見だと感じています。すぐに何かが変わるわけではありませんが、今回の知見が、将来的により個人に寄り添った健康支援や予防法の開発につながる、意義ある一歩となれば大変嬉しく思います」
将来の課題と可能性
今回の調査結果から、将来的には性格を踏まえた個別化された予防策の可能性も示唆されました。
ただ、今回の性格評価には簡易版の尺度(TIPI-J)を使用。高血圧の状態や生活習慣は自己申告であり、記憶や回答傾向によるバイアスがある可能性もあるため、今後はより包括的な評価ツールの導入が求められます。
コメント