人生100年時代

日常生活に取り入れやすいウォーキング、全身持久力を高める有酸素運動/体力の正体は筋肉(18)

<体力の正体は筋肉/第5章:下半身と体幹の筋肉をきたえなさい(6)>
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私たちはなぜ長く歩き続けられるのか

ウォーキングは、全身持久力を高めてくれる有酸素運動の定番です。人間の特権であり、もっとも基本的な移動の方法である「歩き」によるトレーニングも、選択肢の1つに加えてみてはいかがでしょう。

ところで、素朴な疑問ですが、私たちはなぜ長く歩き続けることができるのでしょうか。

固定された点から糸でつるされたおもりを、糸がゆるまないようにして引っぱりあげてから放すと、行ったり来たりの動きをくり返します。この「振り子運動」は、空気抵抗や摩擦エネルギーなどがなければ永久に続きます。この運動が、歩くときに両脚で交互に行われています。

脚をうしろに振り上げると位置エネルギー(高さ)が生まれ、それが運動エネルギー(速さ)に変換されて脚が前に振り出されるかたちになるのでエネルギーの消費量は小さくて済み、長く歩き続けることができるというわけです。

ウォーキング中は、抗重力筋のおかげで直立姿勢を保ったうえで、上記の図のように下半身と体幹のさまざまな筋肉が働きます。

歩くときに使われる骨格筋の機能は、なにもしなければ加齢とともにどんどん低下します。そうなると、歩く速度は急激に遅くなり、歩幅もとても狭くなって、歩行能力にマイナスの影響が出て自立した生活ができにくくなります。

ウォーキングでは、速筋線維よりも遅筋線維がメインで使われているために、筋トレのような筋力アップの効果だけを期待することはできません。

しかしながら、有酸素運動は全身持久力を高めるほか、内臓脂肪の減少、高血糖、脂質異常、高血圧の改善、ストレス解消(心のリフレッシュ)といった効果は十分期待できますから、ウォーキングをおすすめする理由は十分にあります。

特別な道具は不要、自分で運動量や強度を調節

ウォーキング人口が多いのは、日常生活に取り入れやすく、特別の道具や技術を必要とせずに、どの年代の人でもどこでもすぐにできて、運動量や運動の強度を自分で調節できるからです。

会社勤めをしていて、平日にはウォーキングのための時間がとれないという人でも、方法はあります。

エレベーターやエスカレーターを使わずにできるだけ階段を歩く、近い距離の外出には乗り物に乗らない、自宅から最寄り駅まであえて遠回りするコースを歩く、自宅や会社の最寄り駅より1つ手前の駅で乗り降りして歩くようにするなど、日々わずかでも歩数をかせぐように工夫する―。

「さぁ、これからウォーキングするぞ!」と、わざわざ出かけるまでもなく、こうした通勤のついでの小さな積み重ねによって「歩行が日常化」すれば、間違いなくトレーニングとしてのウォーキングと同じ効果があります。

無理して歩数をかせぐ必要はない

よく「1日1万歩は歩かないと効果がない」といわれていますが、なぜなのでしょう。

『健康づくりのための身体活動基準2013』(厚生労働省運動基準・運動指針の改定に関する検討会)で、生活習慣病を予防するのに効果がある身体活動量を歩数に換算すると1日8000~1万歩になる、というのがその根拠のようです。

ただ、毎日のこの歩数は、多忙な現役の世代にとって現実的ではありませんし、1万歩を歩くこと自体、正直いってかなりきついものがあります。1万歩を目標に無理をしてしまうとオーバートレーニングになり、ひざや腰を痛めることにもなりかねないですから、あくまで目安と考えたほうがいいかもしれません。

「ひざが痛い」とある整形外科で診察を受けた男性は、問診の結果、毎日2万歩近く歩いていたと聞いて驚きました。歩数をかせげばいいというものではありません。

ウォーキングの効果は、まとめて歩かなくても、小分けにしても変わりません。毎日の通勤を工夫してできるだけ歩数をかせぎ、少し足りないと思ったら週末の休みに時間をとって補い、1週間単位で帳尻をあわせて目標とした歩数を達成するという方法でもかまいません。

特に暑い季節には、ウォーキング中の水分補給は絶対に忘れずに。いっぽうで、冬季には万全の防寒対策が必要です。動きやすい服装、フィットした靴を着用して、まずは坂道の少ない歩きやすいコースで行いましょう。

腰から脚にかけての筋肉をきたえるスロージョギング

自分のペースでゆっくり走る「ジョギング」や、大会でできるだけ速く走る「ランニング」は、ウォーキングと並んで多くの人に親しまれている有酸素運動です。

しかし、これまであまり運動をしてこなかった人や走ることが苦手な人にとって、いきなりジョギング、ましてやランニングはハードルが高く感じられるでしょう。

そこでおすすめしたいのが、スロージョギングです。

その方法は、とても簡単。上図のように、姿勢をまっすぐにしてつま先立ちをします。その場で小刻みに足踏みをしてから、そのまま歩幅20~30㎝で前進していく、それだけです。

ジョギングはかかとから着地しますが、スロージョギングは足の指の付け根から着地するのがポイントで、そのために、脚の関節や腰への負担が軽減されます。

腕を大きく振る必要はなく、歩く速度とほとんど変わらない、自分にとってもっとも楽なペースでかまいません。これなら、長く続けられそうです。

約1時間、4~5㎞の距離を同じペースでスロージョギングを続けると、ウォーキングに比べて1・6倍のエネルギーを消費できます。

また、はじめは50mずつウォーキングとスロージョギングを交互に行うといったように同じペースで続けなくても、ウォーキングだけのときより約1・5倍のエネルギーを消費できるので、ダイエットにも役立ちます(坂本静男編著『メタボリックシンドロームに効果的な運動・スポーツ』ナップ)。

もちろん、スロージョギングでも、直立姿勢を保つための抗重力筋のほか、ウォーキングと同じように、腰から脚にかけての多くの筋肉群の活動レベルを高めてくれます。

スロージョギングといえども、より安全に楽しむ配慮が必要です。1回の距離は4~5㎞以内におさえ、自分の体力に合ったペースをキープ。食事の直後や空腹時は避け、水分補給は十分に行います。ひざへの衝撃をやわらげるため、クッション性の高いシューズを着用しましょう(スロージョギングは、日本スロージョギング協会の登録商標です)。

(つづく)

体力の正体は筋肉

樋口満 早稲田大学スポーツ科学学術院名誉教授

体力の正体は筋肉

シニアにとって、体幹と下半身の筋力トレーニングは自立した健康的な生活に不可欠。そのため、自宅で誰でもできる最強のトレーニング方法を紹介します。さらに、筋肉を強くする仕組みや、筋力をつけることがなぜ重要なのか、筋肉に最適な食事についても啓発していきます。

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樋口満

樋口満

早稲田大学スポーツ科学学術院名誉教授

身体活動・座位行動科学研究所顧問。教育学博士。名古屋大学理学部化学科卒業。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。専攻は健康スポーツ科学、スポーツ栄養学。ハンガリー体育大学名誉博士。日本スポーツ栄養学会・日本体育学会名誉会員。第20回秩父宮記念スポーツ医・科学賞。

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