25~30%の女性が産後うつを経験
出産後の女性の4人に1人から3人に1人がうつ症状を経験すると言われています。しかも、この症状は出産直後だけでなく、長い場合は4~5年も続くことがあり、コロナ禍以降増えているとも言われています。
多くの場合、最初は「なんとなく体調が悪い」「疲れやすい」といった身体的な症状から始まるため、心の不調になかなか気づけないのが現状です。
うつリスクの高い母親の腸内細菌叢の特徴
このたび、京都大学の明和政子教授らの研究チームが、0~4歳の子どもを育てている344人の母親を対象に調査を実施。心身の状態や食生活についての質問に回答してもらい、便を採取して腸内細菌叢を調べたところ、驚くべき事実が判明しました。
48人(14%)がうつ病診断の基準を満たすほどの高リスクで、うつリスクの高い母親の腸内細菌叢をみると、そうでない母親に比べて多様性が低く、特にある菌が少ないことがわかりました。
<うつリスクの高い母親の腸内細菌叢>
- 腸内細菌の種類が少ない(多様性が低い)
- 特定の有益な細菌が不足している
特に不足していたのは、「短鎖脂肪酸」という体に良い物質を作る細菌です。中でも「酪酸」という物質を作る細菌が少なくなっていました。
短鎖脂肪酸とは?
腸内細菌が食物繊維などを分解する時に作る物質で、腸の健康を保ったり、脳の働きにも影響すると考えられています。
食事にも特徴、足りない食品とは
さらに、うつリスクが高い母親の食事を詳しく調べると、以下の食品の摂取が少ないことがわかりました。

- 大豆製品(豆腐、納豆、味噌など)
- 発酵食品(ヨーグルト、キムチ、漬物など)
- 海藻類(わかめ、こんぶ、のりなど)
- きのこ類
一方で、野菜、肉、魚だけをバランス良く食べているだけでは、うつ症状の改善にはつながらず、日本人は日本の伝統的な食材を意識的に取り入れることで心身ともに健康を保てることを示唆しています。
日本の伝統的な食材を意識的に
研究を行った松永倫子特定講師は次のようにコメントしています。
「日本人の腸内細菌叢には日本人にあった食生活習慣が重要だと考えて研究を重ねてきました。野菜や肉、魚をバランスよく食べるだけではうつ症状に関連せず、大豆製品や発酵食品、海藻やきのこの摂取などが心身の健康に寄与する可能性が示され、日本が古くから築いてきた和食文化の奥深さを痛感しました」
この研究結果は、産後うつの予防や改善に食事療法が役立つ可能性を示しています。特に日本の伝統的な食材を積極的に取り入れることで、腸内環境を整え、心の健康を保てるかもしれません。
ただし、研究チームは「今回の研究だけでは因果関係は証明されていない」として、今後はより大規模で長期的な研究を行い、食事の改善が実際にうつ症状の緩和につながるかを検証していく予定です。
この研究成果は2025年9月2日に国際学術誌「PNAS Nexus」に発表されました。
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