大人の病気

 【連載・前編】夜になると出るそのかゆみ、40代女性に多い「慢性特発性蕁麻疹」かもしれません

慢性特発性蕁麻疹Vol.1 ~病気の正体編~

「夕方になると体がかゆくなる」
「蚊に刺されたような膨らみができては消える」

そんな症状に、もう何週間も、あるいは何ヶ月も悩まされていませんか?

「疲れているからかな」「そのうち治るだろう」と市販の塗り薬でしのいでいるあなた。もしかすると、それは単なる肌荒れや一時的なアレルギーではなく、「慢性特発性蕁麻疹(まんせいとくはつせいじんましん、CSU)」という病気かもしれません。

推定200万人、毎年100万人が発症

実は今、日本にはこの病気に悩む人が約200万人いると推定されています。毎年、新たに100万人が発症している決して珍しい病気ではないのです。

しかし、「蕁麻疹なんて大したことない」という誤解や、「そのうち治るはず」という軽い考えから、適切な治療にたどり着けずに我慢し続けている人がたくさんいます。

今回は、大阪医科薬科大学皮膚科学教室准教授の福永淳先生へのインタビューや最新の調査データをもとに、大人の蕁麻疹の正体と、劇的に進歩している最新の治療法について分かりやすくお伝えします。

そもそも「慢性特発性蕁麻疹(CSU)」とは?

6週間以上続くなら「慢性」のサイン

蕁麻疹は、皮膚の一部が突然赤くくっきりと盛り上がり(膨疹)、しばらくすると跡形もなく消えてしまう病気です。多くの人が経験する、いわゆる「急性の蕁麻疹」は風邪のようなもので、1週間から2週間程度で自然に治ってしまいます。

蕁麻疹(提供=福永淳先生)

しかし、中には6週間(1ヶ月半)以上経っても、良くなったり悪くなったりを繰り返して症状が続くケースがあります。これを「慢性蕁麻疹」と呼びます。慢性に繰り返す中でも、特定の刺激がなく繰り返すものを「慢性特発性蕁麻疹」と呼びます。

原因が特定できない、体内で何らかの炎症

「特発性」という聞き慣れない言葉には、「原因が特定できない」という意味があります。

蕁麻疹というと、「何か変なものを食べたかな?(食物アレルギー)」「ダニやホコリのせい?(環境因子)」と原因探しをしたくなりますが、大人の蕁麻疹の約7~8割は、原因が特定できない「特発性」なのです。

「原因不明」と聞くと不安になるかもしれませんが、これは「あなたの生活態度が悪いわけでも、特定の食べ物が悪いわけでもない」ということ。体の中で何らかのスイッチが入り、炎症反応が起き続けている状態なのです。

ストレスや疲れが引き金になることもありますが、それ自体が根本原因というわけではありません。外からは原因が特定できないだけなのです。

40代がピークで女性が6割、10年以上悩む人も4割

慢性特発性蕁麻疹は、子供よりも大人に多くみられ、患者数のピークは、仕事や家事で忙しい40代。20代から50代と幅広い年代におり、その約6割が女性を占めています。調査によると、患者の約4割が10年以上も症状に悩まされています。

「慢性特発性蕁麻疹(CSU)の患者数」グラフ
出典: Saito R, et al. J Dermatol. 2022; 49(12): 1255-1262)
「慢性特発性蕁麻疹(CSU)の患者男女比」グラフ
  出典: Fukunaga A, et al. J Clin Med. 2024;13(10):2967.

湿疹やアレルギーとの違い、塗り薬で治らない

皮膚にかゆみがあると、つい「湿疹」や「かぶれ」と同じように考え、塗り薬で治そうとしてしまいがちです。しかし、専門医である福永先生は、「湿疹と蕁麻疹は全く違う病気」だと強調します。先生による非常にわかりやすい例え話を紹介しましょう。

湿疹は「雑草」、蕁麻疹は「モグラ叩き」

湿疹(アトピー性皮膚炎やかぶれなど)
これは「雑草」のようなものです。放っておくとずっとそこに生えています。これに対する治療である「ステロイドの塗り薬」は「草刈り」です。上から塗って炎症(草)を枯らせるのが正解です。

 蕁麻疹
これは「モグラ叩き」です。皮膚の下から「ポコッ」と出てきては、また引っ込み、別の場所から「ポコッ」と出てきます。神出鬼没です。つまり、これに対して塗り薬を塗っても、皮膚の表面を撫でているだけで、土の中にいるモグラ(原因)には届きません。蕁麻疹にステロイドの塗り薬は効かないのです。

治すなら飲み薬や注射、体の中から

「でも、薬を塗ったら消えたよ?」という方もいるかもしれません。それは薬が効いたのではなく、蕁麻疹の「数時間~24時間以内に跡形もなく消える」という性質によるものだといいます。

「自然に引っ込んだタイミングと薬を塗ったタイミングが重なっただけで、実は体の中の“モグラ(炎症)”を退治したわけではないんです」(福永先生)。

蕁麻疹を治すには、湿疹のように塗り薬(外からの治療)ではなく、飲み薬や注射(体の中からの治療)で、モグラが出てこないように抑え込まなければなりません。

「理解されないつらさ」が生活の質を下げる

慢性特発性蕁麻疹の最大の問題は、「症状のつらさが周囲に伝わりにくい」ことです。

 夜にかゆみ、朝には消えている

蕁麻疹の中でも特に慢性特発性蕁麻疹は、夕方から夜にかけて出ることが多く、朝起きると消えていることがよくあります。夜中、眠れないほどの猛烈なかゆみに襲われ、掻きむしって苦しんでいても、翌朝、病院に行く頃には肌はきれいさっぱり元通り。「何もなってないじゃない」「気のせいじゃないの?」と、家族や医師にさえ理解してもらえないことがあるのです。

終わりの見えない不安、でも命に関わる病気でないから…

さらに、「いつまで続くかわからない」という不安も患者を苦しめます。

  •  いつ出るかわからないからビクビクして、旅行や外食を楽しめない
  •  かゆみで夜眠れず、日中の仕事や家事に集中できない
  •  人前で顔や腕が腫れるのが怖くて、夏でも長袖を着ている

このように、命に関わる病気ではなくても、日々のQOL(生活の質)は著しく低下しています。

一方で、患者の多くは「死ぬわけじゃないし」「我慢すればいい」と、そのつらさを過小評価してしまっているのが現状です。つらくても長年、症状を抱えていると、それに慣れてしまっていることもあります。

表面のケアから、根本的な解決へ

ここまで、40代女性に多い「慢性特発性蕁麻疹」という病気の正体について、一般的な湿疹との違いを交えて解説してきました 。 表面の雑草を刈るのではなく、地中に潜むモグラを退治しなければならない…… 。しかし、この「いつ出てくるかわからない」という神出鬼没な特徴こそが、私たちを不安にさせ、医師への相談を難しくしている最大の要因でもあります 。

では、病院に行くと隠れてしまうこのやっかいな「モグラ」を、医師にどう伝えれば適切な治療につながるのでしょうか?

次回の記事「伝わらないかゆみ『慢性特発性蕁麻疹』は“我慢”から“治す”へ、医師への伝え方と最新治療」では、目に見えないつらさを医師に正しく伝えるためのテクニックや、2026年の新ガイドラインを含む最新の治療法について詳しくご紹介します。長年の悩みから解放されるためのヒントが、きっと見つかるはずです。

福永淳先生

大阪医科薬科大学皮膚科学教室准教授

福永淳(ふくなが・あつし)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医・指導医。皮膚アレルギー(蕁麻疹、アトピー性皮膚炎)、光線や発汗に関わる病気などが専門領域。日本皮膚科学会蕁麻疹診療ガイドライン2026の作成委員会委員長としてガイドラインの改定作業に従事。趣味はテニス。

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飯田みさ代

飯田みさ代

大人女子健康プロデューサー/ウォーキング講師

記者・編集者として日刊スポーツ新聞社に34年間勤務。紙面だけでなく、Webやモバイルサイトのコンテンツ制作にも長く携わる。ジュニアアスリートの食事を支える情報サイト「アスレシピ」では編集長を務め、成長期の子どもを持つ保護者、特に母親たちから多くの支持を集めた。

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