食文化

旬を味わう ~干し柿とあんぽ柿編 渋柿を“干した”先人の知恵と工夫~

気がつけば、もう12月。秋はあっという間に過ぎ、季節は足早に冬へ向かっています。
みなさんは干し柿、食べますか?
私は5~6年前から干し柿づくりを始めました。


八ヶ岳と神奈川の二拠点生活の中で出会った楽しみのひとつです。
干し柿用の渋柿が店頭に並ぶのは、ほんの2週間ほど。
今年はタイミングを逃してしまったと思い、半ばあきらめていました――。

干し柿用の渋柿が手に入るのはほんの少しの期間です。

柿はなぜ渋く戻る? “渋戻り”という不思議

そんなときSNSで「渋抜きした柿でジャムを作り、紅茶を入れたら渋くなった」という投稿を見かけました。
そこに添えられていた回答が “渋戻りです” のひと言。
調べてみると、柿のタンニンは加熱によって再び水に溶けやすくなり、渋みがよみがえることがあるのだとか。(紅茶を使ったことで渋戻りが進んだのかと。)

干し柿が「高温ではなく、風と時間でゆっくり水分を抜く」食べ物である理由が、そこにあります。
先人たちが試行錯誤し、渋みを抑える方法として選び続けてきたのが
“干す” という知恵なのだと、あらためて感じました。

千年以上つづく甘味文化:干し柿の歴史

奈良時代にはすでに干し柿が作られていたといわれています。砂糖が貴重だった時代、自然の甘さを得られる干し柿は、贅沢品でもありました。

おそらく当時の人も、煮てみて「渋い!」という失敗を重ねてきたのだろうな、と想像します。
長い時間の中で残った“干す”という技法が、いまも私たちの食卓に届いている――。
そう思うと、干し柿を見るだけで胸が熱くなります。
そうしたら、やっぱり「今年も作りたい」と思ってしまったのです。

渋柿の皮をむく作業もこの程度の数ならそれほど時間はかかりません。

干し柿とあんぽ柿、何が違うの?

干し柿  
・水分:25~30%
・天日または加熱乾燥
・表面の白粉は糖が結晶化したもの。多いほど上質。
あんぽ柿 
・水分:約50%
・発祥:福島県伊達市梁川町五十沢地区
・名称の由来:「あまぼしがき」が訛ったもの
・1922年に硫黄燻蒸技術が確立し、安全に“半生状態”を保てるようになった。

道の駅で買ったあんぽ柿。

あんぽ柿が革命だった理由──干しブドウの知恵から生まれた技術

干し柿づくりでは、途中にあんぽ柿のような“半柔らかいおいしい時期”があります。
でもそのままではカビが生えてしまい、保存がききません。
そこに着目したのが、アメリカの干しブドウの製法。ブドウを硫黄で燻蒸する技術をヒントに、「水分が多いまま安全に止める」方法が確立されました。

渋柿は甘柿よりも糖度が高く、あんぽ柿はビタミンCもより残ると言われています。
100年以上受け継がれ、今も愛されている理由がよくわかります。

100年の間の幾たびの困難、そして2011年の震災という大きな大きな出来事も乗り越えてきた話が印象的。2024年3月発刊の絵本。おとなに読んでほしい絵本だなと…。

おわりに──今年の干し柿、そして来年のあなたへ

10日たった干し柿。もうちょっとかと。甲州百匁柿(こうしゅうひゃくめがき)を使っています。

我が家の干し柿も、干して10日ほど。
ひとつ味見してみたら――
「もっと柿を買えばよかった」と思うほどの出来でした。

今年は干し柿づくりの季節を逃した方も、
来年はぜひ一緒に挑戦してみませんか?

参考:『改訂調理用語辞典』(社団法人全国調理師養成施設協会)/JA福島未来ホームページ/「百年のあんぽ柿~五十沢あんぽ柿ものがたり 作:粕谷ひろみ 絵:原田くるみ 監修:曳地一夫 発行所パブリック・ブレイン」

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月野和美砂

月野和美砂

季節の手仕事で整える 食文化ナビゲーター

公認スポーツ栄養士・管理栄養士。元教員。八ヶ岳と行き来しつつ、神奈川県を中心にスポーツ栄養セミナー、子育て期の保護者向け講習会をリアル・オンラインで行う。鍼灸柔整専門学校で栄養学も担当し身近な話でわかりやすい!と好評。時短や簡便な料理が全盛な世の中でも、季節の手仕事や各地の郷土料理など“つくる楽しさを味わう”ことを大切にしたいと考えている。食を通してからだもこころも「整える暮らし」を提案する。

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