犬と暮らす高齢者は、犬を飼ったことがない高齢者より、要介護認知症の発症リスクが48%低い――。
そんな研究結果が先日発表され、犬との暮らしが高齢者の健康や医療・介護費に与える影響が注目されています。
ただ、実際にシニア犬と暮らす人たちの声を聞くと、「高齢者は犬を飼えばいい」と単純には言えない現実も見えてきました。
犬を飼う高齢者が増えると約5920億円の医療・介護費削減
先日発表された研究結果は以下の内容です。
国立環境研究所、東京都健康長寿医療センター、東京大学などの研究チームが、高齢者約1万1200人を7年半追跡。その結果、現在犬を飼っている高齢者は、犬を飼ったことがない高齢者と比べて、要介護認知症の発症リスクが48%低いことが示されました。
犬との生活によって散歩などの身体活動が増え、人との交流が生まれる。そうした生活習慣が、高齢期の健康に良い影響を与えている可能性があります。
さらに、犬と暮らす高齢者が増えた場合、公的な医療・介護費は4年間で約5920億円削減される可能性があると試算されました。
この研究結果から「高齢者は犬を飼った方がいい」と言う人も出てきましたが、そう結論づけるのは早計でしょう。
犬の平均寿命は約15年 58歳で迎えれば15年後は73歳
一般社団法人ペットフード協会の2025年調査によると、犬全体の平均寿命は14.82歳。ほぼ15年です。
50代、60代で犬を迎えるなら、その15年を自分自身のライフプランと重ねて考える必要があります。
例えば、58歳で子犬を迎えるとすると、犬が平均寿命を迎える頃には73歳。65歳なら80歳です。犬が年をとる15年間に、飼い主自身も年齢を重ねます。そこに、人間と犬との「老々介護」が生じます。
シニア犬との暮らしで見えた、飼い主のリアル
先日、犬のケアと食事、それぞれの専門家がオンラインで開催した「シニア犬座談会」に参加しました。そこで、実際に15歳前後のシニア犬と暮らしている人たちの声を聞くと、「高齢者は犬を飼うべき」と単純に言えない現実が見えてきました。
犬も年を重ねると、動きもゆっくりとなり、病気にもかかりやすくなってきます。長く過ごしてきたからこその愛おしさはありますが、介護が始まれば、生活そのものが変わることもあります。
夜中に起きて世話をする。
長時間、家を空けられない。
実際に、外でのフルタイム勤務から在宅でできる仕事に変えたという人もいました。
病院に行けば、一度に数万円かかることもあり、シニアになるにつれて、その頻度が高くなる場合もあります。
食費だけではなく、治療費、ケア用品、おむつ代なども必要になります。時間も、お金も、体力もかかります。
また、地方に住んでいる人からは、「近くに診てもらえる病院がない」という話も出ました。必要な治療を受けるために、県外の病院まで何時間もかけて通うこともあるといいます。
犬は家族です。そのために生活そのものが変わっていきます。そこには単に愛情だけでは語れない、覚悟も必要となります。

「この子を看取ったあと、次の犬を迎えられるのか」
座談会で特に印象に残ったのが、「今いる子を看取ったあと、次の犬をどうするか」という話です。
今まさにシニア犬を介護している50代の飼い主からは、「この子を最後まで看取ったあと、もう一度、新しい犬を迎えるかどうか、迷っている」という声がありました。
今いる犬を最期まで大切にしたい。ただ、その先にもう一度、子犬を迎えれば、そこからまた10年、15年と命を預かることになります。
自分の年齢や体力を考えたとき、次の一頭を迎えて最期まで見られるのか。
すでにシニア犬を看取った50代後半の女性は、「もう次は飼わないと決めている」と話していました。
犬が嫌いになったわけではありません。むしろ大好きだからこそ、自分が最期まで責任を持てるかを考え、あえて次の犬を迎えないという選択です。
飼うのか、飼わないのか。正解は一つではありません。それぞれが自分の年齢やこれからの暮らしと向き合いながら、「次の一頭」を考えていました。
共通して出たのは「飼い続けられる環境」
また、参加者から飼うための条件として共通して出ていたのは「飼い続けられる環境があるかどうか」ということでした。
普段から「犬とも」を作り、何かあったときに相談したり、助け合えたりする関係を持っておくことも大切です。ただ、個人のつながりだけでは解決できない問題もあります。
自分が入院したら、誰が預かるのか。
散歩や通院が難しくなったら、誰に頼めるのか。
さらに、
高齢になってもペットと暮らせる住まい。
一時的に預かってもらえる場所。
介護や通院を支えるサービス。
地方でも必要な獣医療を受けられる環境。
こうした社会的な支えをもっと充実させてほしい、という声も多く聞かれました。
「飼いたい」に応えられる社会へ
今回の研究は、犬と暮らすことが高齢者の健康や認知症予防に良い影響を与える可能性を示しました。
対して、シニア犬と暮らす人たちの声から見えてきたのは、愛情だけでは飼い続けられない現実です。
犬やペットと暮らすことが、私たちの老後を豊かにし、健康にもつながるのであれば、その暮らしを最期まで支えられる社会の仕組みが必要です。
今回の研究が、認知症予防や医療・介護費削減という結果だけで終わらず、人とペットが最期まで安心して暮らせる環境整備へとつながっていくことを期待します。