大人の病気

「私は吸わないから大丈夫」は本当?40代・50代女性が知っておきたい受動喫煙とCOPD/後編

子どもの頃、お父さんは家の中でたばこを吸っていませんでしたか。

食卓の横、リビング、家族で出かける車の中。親戚が集まる部屋には灰皿が置かれていました。

大人になってからも、職場の机に灰皿があり、会議中や飲み会の席で煙を浴びることは珍しくありませんでした。

自分でも、学生時代や20代の頃に「付き合いで」「少しだけ」と吸った経験がある人もいるでしょう。

濃中央クリニックの大林浩幸院長

昭和から平成初期にかけて、たばこの煙は暮らしのすぐそばにありました。現在の40代・50代は、子どもの頃から知らないうちに煙を浴びて育ってきた世代です。

子どもの肺は、まだ成長の途中。大切な時期に受動喫煙が続くと、肺機能が本来の水準まで十分に成長しない可能性があります。

ここに、「自分はたばこを吸わないから、COPDとは関係がない」と言い切れない理由があります。

受動喫煙が肺へ与える影響と、今からできることについて、COPDの診療に長年携わり、日本呼吸器学会指導医で、COPD診療ガイドラインの作成にも携わる東濃中央クリニックの大林浩幸院長に話を聞きました。【聞き手・飯田みさ代】

私たちは、知らないうちに煙を吸っていた

受動喫煙とは、自分以外の人が吸ったたばこの煙を、周囲にいる人が吸い込むことです。

喫煙者が吐き出す煙だけではありません。火のついたたばこの先から立ち上る煙にも、有害物質が含まれています。

現在は、公共施設や飲食店の禁煙・分煙が進みました。しかし、40代・50代が子どもや若者だった頃は、家庭でも職場でも、たばこを吸うことが珍しくありませんでした。

・父親が家の中で吸っていた。
・交際相手や夫が、車や部屋の中で吸っていた。
・職場では、上司や同僚が自席で吸っていた。
・飲み会では、隣の席から煙が流れてきた。
・自分でも、学生時代や20代の頃に「少しだけ」「付き合いで」と吸った経験がある。

当時は、煙を避けるという考え方が今ほど浸透していませんでした。本人が選んだことではなく、時代の環境によって煙を吸わされていた人も少なくありません。

過去の受動喫煙があるからといって、必ずCOPDになるわけではありませんが、「吸っていないから大丈夫」と過信もできません。

受動喫煙で子どもの肺の成長が止まることも

肺は、生まれたときから完成している臓器ではありません。子どもから大人へ成長する過程で、肺の組織や呼吸機能も発達していきます。成長期にたばこの煙を吸い続けると、肺機能が十分に伸びない可能性があります。

大林先生は「子どもの頃に受動喫煙を受け続けると、本来ならもっと伸びるはずだった肺の機能が、十分に伸びないことがあります」と説明します。

これは、大人になってから肺機能が低下する話だけではありません。大人になった時点で、肺機能のスタートラインが低かった可能性があるということです。

若い頃は、肺や筋肉に余力があります。肺機能がやや低くても、日常生活で困る場面は少ないかもしれませんが、年齢を重ねると、肺機能や筋力は少しずつ低下します。

もともとの肺機能が十分に成長していなかった場合、加齢による低下が重なり、40代・50代になってから息切れや長引くせきが目立つことがあります。

もちろん、過去に受動喫煙を経験した人が、必ずCOPDになるわけではありません。大切なのは、過去を不安に思い続けることではなく、今の自分の肺がどのような状態なのかを知ることです。

50代の息切れを「年のせい」にしない

50代になると、以前より疲れやすくなった、階段がつらくなったと感じる人が増えてきます。それを「体力が落ちただけ」「年齢だから仕方がない」と受け止めてはいないでしょうか。

次のような変化がある場合は、注意が必要です。

  • 階段や坂道で、以前より息が切れる
  • 同年代の人と同じ速さで歩くのがつらい
  • 風邪のあと、せきが2週間以上続く
  • 朝にせきやたんが出る
  • 呼吸器の感染症を繰り返す
  • 息切れを避けるため、外出が減った

ただし、これらの症状はCOPDだけに起こるものではありません。大人になってから発症する喘息、心臓病、感染症などが隠れている可能性もあります。

大林先生は、「風邪をひいた後にせきが長引く場合には、COPDだけでなく、大人の喘息が隠れていることもある」と指摘します。

だからこそ、自己判断で「COPDだ」と決めつけるのではなく、呼吸器内科などで原因を調べることが大切です。

呼吸機能検査で「今の肺」を知る

COPDの診断に使われる代表的な検査が、スパイロメトリーと呼ばれる呼吸機能検査です。マウスピースをくわえ、大きく息を吸い込んだ後、 できるだけ強く一気に息を吐き出します。

人間ドックで受けたことがある人もいるかもしれません。この検査によって、肺からどれだけ空気を吐き出せるか、空気の通り道が狭くなっていないかを確認します。

過去の受動喫煙が気になって、症状のない人全員が検査を受けなければならない、というわけではありませんが、受動喫煙や喫煙経験があり、せき、たん、息切れなどが続いている場合は、一度相談する価値があります。

自分も家族もこれ以上、たばこの煙で傷つけない

過去を、今から変えることはできませんが、これ以上、自分の体をたばこの煙で傷つけないことはできます。また、たばこの煙が、子どもや孫、周囲の人にも悪影響を及ぼすということも覚えていてほしいところです。

現在たばこを吸っている人は、禁煙する。
家族に喫煙者がいる場合は、家や車の中を完全禁煙にする。

加熱式たばこも、周囲への影響がないわけではありません。「家族に悪いから外で吸っている」で終わらせず、本人の健康のためにも禁煙を考えることが必要です。

大林先生は、「自分で吸っていなくても、煙のある環境にいれば肺は影響を受けます。まずは、これ以上たばこの煙を吸わない環境をつくることが大切です」と、たばこの煙から離れることが、本人だけでなく家族の肺を守ることにつながると話します。

COPDは、早く気づけばできることがある

一度壊れた肺胞を、完全に元どおりにすることは困難です。ただし、COPDと診断されても、何もできないわけではありません。 

治療の中心は、気管支を広げて呼吸を楽にする吸入薬です。症状や病気の状態に応じて、複数の成分を組み合わせた吸入薬が使われます。

呼吸リハビリや適切な運動も大切です。筋力と体力を保つことで、息切れを軽くし、日常生活を続けやすくします。

2025年には、従来の治療で十分な効果が得られず、急な悪化を繰り返す一部のCOPD患者に対し、分子標的薬「デュピクセント」(一般名・デュピルマブ)という新たな治療の選択肢も加わりました。

すべてのCOPD患者が使用する薬ではありません。血液検査などで炎症のタイプを調べ、医師が適応を判断します。治療薬の進歩以上に大切なのは、病気を早く見つけることです。

早く気づけば、禁煙や治療、生活改善を始められます。症状を軽くし、急な悪化を防ぎながら、今の生活を維持することにつながります。

今の自分を知ることが、自分の未来を守る

40代・50代の私たちは、たばこの煙が身近にあった時代に育ちました。吸いたいと思っていなくても、知らないうちに煙を吸ってきました。その影響がどの程度残っているのかは、一人ひとり異なります。

だからこそ、過去を怖がるのではなく、今の自分を知ることが大切です。

風邪の治りが遅い
階段を昇ると息切れする

そんな変化があれば、「50代だから」と終わらせず、呼吸器内科などで相談し、必要に応じて検査を受けてみてください。

過去は選べなかったとしても、これから過ごす環境や行動は選べます。

大林浩幸

医療法人秀嶺会東濃中央クリニック理事長・院長

   

大林浩幸(おおばやし・ひろゆき)

医学博士。日本呼吸器学会指導医・専門医、日本アレルギー学会指導医・専門医、日本内科学会指導医・認定医などを務める。COPD、気管支喘息、アレルギー疾患を中心に診療し、地域のCOPD対策や喘息死ゼロを目指す活動にも取り組む。日本呼吸器学会「COPD診断と治療のためのガイドライン」の査読や作成に携わり、COPDと骨粗しょう症、フレイル、サルコペニアなど、呼吸器疾患と全身の健康との関係についても発信している。

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飯田みさ代

飯田みさ代

歩き方と言葉で、印象と価値を整える編集者

記者・編集者として日刊スポーツ新聞社に34年間勤務。紙面だけでなく、Webやモバイルサイトのコンテンツ制作にも長く携わる。ジュニアアスリートの食事を支える情報サイト「アスレシピ」では編集長を務め、成長期の子どもを持つ保護者、特に母親たちから多くの支持を集めた。

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