最近、更年期女性に「脂肪肝」が増えているといいます。脂肪肝とは、簡単に言うと、肝臓の細胞に脂肪が入り込んでいる状態。鴨やガチョウだったら高級食材のフォアグラになりますが、人間の場合、肝機能障害のリスクが高まります。
お腹の内臓のまわりにつく「内臓脂肪」、お尻や太もも、二の腕など体中の皮膚と筋肉の間につく「皮下脂肪」と違って、「脂肪肝」は肝臓に脂肪が溜まった状態です。現在、健康診断を受けた日本人の約3人に1人が、脂肪肝を指摘されているのも驚きです。
痩せていても「隠れ脂肪肝」、お酒を飲まない人も女性も
やっかいなのは、脂肪肝かどうか、見た目で判断できないこと。肥満やメタボの人にその傾向が高い、というのはイメージがわくと思いますが、見た目がスリムな痩せ型の人にも脂肪肝がみられる場合があります。このような「隠れ脂肪肝」のケースも増えているため、専門医の検査で状態を把握することが重要です。
脂肪肝の原因は、お酒の飲みすぎばかりではありません。この夏は特に、猛暑による運動不足、甘いドリンクの増加、熱中症予防でスポーツドリンクの多飲…で脂肪肝予備軍となった人も増加。お酒を飲まない人にも脂肪肝、いわゆるMASLD(代謝機能障害関連脂肪肝疾患)が広がっているのです。
「痩せているから大丈夫」「女性だから関係ない」という思い込みも危険です。特に閉経後の女性はコレステロール値が上がりやすく、脂肪肝リスクが高まるといわれます。
新百合ヶ丘総合病院で「MRエラストグラフィ」を体験
そこで今回、神奈川県川崎市・新百合ヶ丘総合病院の「脂肪肝ドック」を体験し、自分の肝臓をチェックしてもらうことにしました。2016年、日本で初めてMRI(磁気共鳴画像)による「MRエラストグラフィ」を導入した病院で、肝臓の脂肪量と硬さを“体を傷つけずに”調べられる最先端の機械で検査を受けることにしました。
50代、女性。これまで大きな病気はしたことがなく、自分では健康体だと思っていますが、果たしてその結果は…。

検査時間20分間、肝臓部分に硬い丸板
さて、検査当日です。
院内で手続きを済ますと、検査着に着替えます。採血・体重測定・腹囲チェックを済ませるとMRI室へ。MRIは放射線を使わないため被曝の心配がないことも、安心して臨めるポイントです。
検査台に横になると、腹部に腹巻のような器具を巻かれます。お腹の右側、肝臓部分には振動発生装置(パッシブドライバー)という丸い硬い板のようなものを差し込まれ、両腕を万歳した状態で台が移動。狭い筒の中へ入っていくと、ひんやりとした空気に包まれていきました。


警報音の中、1分に1度の息止めチャレンジ
当初は、「まあ、爆睡していれば終わるんでしょう」と思ってましたが、筒の中では想定外の展開。第一に、色々なバージョンの警告音が鳴り続けます。それに合わせて、「息を吸って、吐いて、止めて…」のアナウンス。そのたびに10〜15秒間、息を止めなければなりません。
20分間の検査中、約20回ほど。つまり、1分間に1度の間隔で、呼吸を止めていたことになります。
終盤には、肝臓の上に置かれたパッシブドライバーが小刻みに振動。これで、肝臓の硬さを測るのですが、初めての体験でちょっと緊張もしました。
とはいえ、終わってみれば、拍子抜けするほど痛みも不快感もなし。ただ、集中力はかなり必要でした。
緊張の結果発表、私の肝臓は青かった
詳細な結果は3週間から1カ月後に自宅に郵送されますが、検査後すぐに、消化器内科部長の今城健人先生が画面を見ながら、結果を解説してくれました。

モニター画面に、まずは私の内臓の断面図が映し出されました。

続いて、私の肝臓の画像が2つ並んでいます。左は波画像で、しっかり波が肝臓に入っていっていることを確認する画像、右は肝臓の硬さを確認する画像です。
「飯田さんの肝臓は真っ青で、脂肪は全くありませんね」。
今城先生が、硬さを確認する画像を見ながら明るいトーンで話します。
「問題なし」の結果にひゃー、良かった! 安どのため息。数値で示されてもイメージが湧きづらいのですが、色付きの画像で見ると、一目瞭然、納得感が違います。ひとまず、ホッとしました。
検査でわかる肝臓の3つの状態
メリット1=腫瘍や異常の有無
「MRエラストグラフィ」での検査のメリットは大きく3点あります。
「肝臓だけでなく、膵臓(すいぞう)や胆のう、腎臓も同時に確認できるのが大きなメリットです。特に膵臓は胃の後ろにあるため、エコーでも見えにくい臓器ですが、MRIなら病変を早期に発見できます」(今城先生)。
実際に、私の両方の腎臓には大きめののう胞が見つかりました。問題はないとのことですが、これまでの人間ドックで一度も指摘されなかったことなので驚きました。

メリット2=脂肪の量(脂肪肝かどうか)
肝臓の脂肪の量は、PDFF法(プロトン密度脂肪分画法)というMRI技術で、数値化します。「平均5.2%以下が正常範囲」ということで、私の数値は1.7%で正常範囲内(A判定)。自分では皮下脂肪はある方だと思っていましたが、肝臓の脂肪は少ないということで、ちょっとうれしくなります。
メリット3=肝臓の硬さ(線維化の有無)
肝臓の硬度も測れるのが特徴です。肝臓の炎症や損傷が続くと、その修復過程で過剰な線維(コラーゲンなどのタンパク質)が蓄積し、肝臓の組織がかさぶたのように硬くなります。
「肝臓が硬いと、肝硬変や肝がんに進むリスクがあります。硬さは色で表示され、青・緑は柔らかく、黄・赤になるほど危険です」(今城先生)。
私の数値は、2.43kPa(正常~軽度、A判定)。数字よりも画像を見ると、直観で分かります。


上の画像の左下でもわかるように、私の肝臓は真っ青で、肝臓が柔らかい状態です(その画像の赤い部分は胃やその他の臓器の硬い部分)が、「線維化が進行してくると、緑→黄→赤と色が変わってきます」(今城先生)。
脂肪肝だと指摘されながら生活を変えられない人でも、この画像を目にすれば、対策に取り組む気にもなるはずです。私も「この青さをいつまでもキープしないと」と、気が引き締まりました。
なぜ脂肪肝は早期発見が必要なのか
脂肪肝は、単なる“肝臓の肥満”ではありません。放置すれば「肝炎 → 肝硬変 → 肝がん」へと進行するリスクがある病気です。糖尿病や動脈硬化など生活習慣病とも直結します。
しかも、初期はほとんど症状がありません。「沈黙の臓器」といわれる肝臓は気づかないうちに肝機能が低下し、やがて肝炎を起こして肝硬変に進行することがあります。今城先生は「お酒を飲まない=安全は、誤解」と強調します。

脂肪肝の撃退法 ― 薬より食事、生活習慣の改善
それでは、どのような生活をすれば脂肪肝は防げるのでしょうか。
今城先生は「脂肪肝の治療の基本は、まず食事と運動です。甘い飲み物や間食を控え、食生活を整えた上で日常的に体を動かすこと。それだけで数値は改善します」と話します。
過剰なエネルギーの摂取は脂肪肝につながるため、食事全体の量やバランスを意識することが大前提。食事の中では脂質と糖質の摂りすぎに注意が必要です。
間食で、清涼飲料や菓子類などに含まれる果糖(フルクトース)を摂りすぎていることも盲点です。フルクトースは果物や野菜、ハチミツなど、さまざまな天然の食品にも含まれていますが、多くはジュースなどの清涼飲料やお菓子やスイーツなどの加工食品に、「果糖ブドウ糖液糖」や「ブドウ糖果糖液糖」といった名前で使われています。果物を控える以前に、清涼飲料や菓子類を控えましょう。
<脂肪肝対策として気を付けること>
- 甘い飲料や清涼飲料は控え、水・お茶を基本に
- 果物は固形で。液体にすると肝臓へ一気に吸収され、負担が拡大
- 必要以上にスポーツドリンクの多飲も注意
- ブラックコーヒーは1日2杯程度飲むと脂肪肝の線維化予防に効果的
今城先生によると、「近く、脂肪肝の治療薬も承認される予定」とはいうものの、まずは生活習慣の改善をすることが重要です。
脂肪肝ドックを受ける目安
脂肪肝の判定は、血液検査、エコー検査でもできますが、今回の「MRエラストグラフィ」は体に負担もなく、結果が目に見える形で分かります。「この検査で異常がなかった方は3~5年に1回、エコー検査で脂肪肝と診断されたことのある方や、線維化が進んでいる方は毎年1回の検査で定点チェックをした方がいいですね」と今城先生は話します。
病院によっても違いますが、一般的に3万円~4万円で受けられます。人間ドックのオプションにしているところもあります。
検査機器も日々、改良が進んでおり、「息止め」の時間が短いものも開発されているといいます。「そうなると、高齢者の方も受けやすくなりますね」と今城先生は期待を込めて話していました。

まとめ 50代からは「自分の肝臓」を知ることが大事
今回の脂肪肝ドック体験で、体の中がこれだけ簡単に、これだけの精度で見られるということに衝撃を受けました。青か赤か、色で肝臓の状態が判定できるのも分かりやすく、自分の生活習慣を見直すきっかけにもなりました。
人生100年時代。自分の体を丁寧に使い続けるためにも、今の自分を知ることが大切です。50代、未来の自分のために「沈黙の臓器」と向き合ってみてはいかがでしょうか。
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