人生100年時代

継続は力なり!高齢期に始めた楽器練習で脳機能の低下を阻止─4年間の追跡研究で明らかに

「もう年だから遅い…」はない

「もう年だから、何かを始めるのは遅い」
「脳が衰えているから覚えるのが無理」

そんな思い込みを覆す研究結果が発表されました。

京都大学総合生存学館の積山薫教授(現・野生動物研究センター特任教授)と王雪妍氏(研究当時は博士課程学生、現・電子科技大学附属病院研究員)らの研究グループは、平均年齢73歳で楽器演奏を始めた高齢者を4年にわたり追跡。楽器の練習を継続した人々の脳には、加齢による明確な機能・構造の低下が見られなかったことを報告しました。

この研究成果は、2025年6月17日付で国際学術誌「Imaging Neuroscience」のオンラインに掲載されました。

「続けた人」と「やめた人」で、脳に違いが

今回の研究は、2020年に発表された介入研究の追跡調査にあたります。前回の研究では、健常な高齢者が初心者として4カ月間、鍵盤ハーモニカを練習することで、認知機能と脳の一部が向上する可能性が示されていました。

今回の追跡では、当初の参加者を再招集し、

✅楽器練習を継続していた人(継続群)
✅練習をやめて他の趣味に移った人(中止群)

に分けて比較検証が行われました。

継続群では「ワーキングメモリの低下」がなし

4年後の比較結果は次の通りです。

中止群(19人、女性13人、男性6人、平均年齢76歳)=言語的ワーキングメモリ(短期的な記憶・思考力)成績が有意に低下。同時に、右側の「被殻(ひかく)」という脳部位の灰白質体積の減少が確認され、小脳の活動も低下していた

✅継続群(13人、女性10人、男性3人、平均年齢77.85歳)=中止群のような機能低下・構造変化は見られず、脳が保たれていた。

京都大学リリースから

fMRIによる脳機能の計測では、継続群は言語的ワーキングメモリ課題中に、小脳の活動が広範囲にわたって活性化していることが確認されました。

研究グループによれば、これほど長期にわたって高齢期の楽器練習の効果を調べた実証研究は、世界でも初めてといいます。

楽器練習は“新しいこと”の一過性効果ではない

高齢期においては、記憶や注意といった認知機能の低下が避けられないとされてきました。そのため、これまでの短期研究では「新しいことを始めたから一時的に活性化したのでは?」という指摘もありましたが、今回の研究では3年以上の継続によって脳の加齢変化を食い止めたという明確なエビデンスが示されたことになります。

運動ができなくても、楽器ならできる

積山教授は次のようにコメントしています。

「高齢期には足腰や心臓などの問題から運動が困難になる方もいますが、そんな方でも取り組める楽器が脳・認知機能にこれだけの効果があることは、希望の光となるでしょう」。

なお、今回の研究では、鍵盤ハーモニカや電子ピアノが使用されましたが、他の楽器で同様の効果があるかどうかは今後の研究課題とされています。また、楽器練習には「社会的交流」や「集中力トレーニング」の要素も含まれるため、どの要因が主な効果をもたらしているかは不明です。

それでも、「高齢期に始めた楽器練習を続けることで、認知機能と脳の健康を長期に保てる」という実証は、今後の予防医療や介護予防の現場においても注目されるでしょう。

脳の衰えは年齢のせいばかりではない。やるかやらないか、続けるかやめるか。そんな当たり前のことを、科学があらためて裏付けた研究です。

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