10月、八ヶ岳の朝晩はぐっと冷え込み、空気の中にも秋の香りが漂いはじめました。
そんなある日、北杜市須玉町の「おいしい市場」で見つけた“新米おにぎり”。
パッケージには「武川米(農林48号)」の文字が。
ひと口食べると、ふんわりとした甘みと香りが口いっぱいに広がり、思わず「これぞ新米!」とうなってしまいました。
今回は、そんな出会いから「武川米」と「農林48号」について少しご紹介します。

戦後の“うまい米”を支えた、農林48号
「農林48号」は、1950年(昭和25年)に誕生した、かつて日本全国で親しまれた銘品種のひとつです。
粒立ちがよく、炊きあがりのツヤと香りが美しく、甘みとほどよい粘りが特徴。
現在の主流であるコシヒカリとは別系統ですが、「昔ながらのうまいごはん」として根強い人気があります。
病害虫に弱く収穫量が少ないために次第に姿を消しましたが、北杜市武川町では今も農家の方々の手で「農林48号」が大切に受け継がれています。
南アルプスの水がつくる、武川米のおいしさ
武川町は、甲斐駒ヶ岳からの湧水を水源とする扇状地。
南アルプスの花崗岩でろ過された“超軟水”が田んぼを潤しています。
昼夜の寒暖差が大きく、お米がゆっくりと熟していくことで、しっかりとした甘みと旨みをもつ武川米が生まれるのだそうです。
おにぎりにして冷めてもおいしいのは、この水と気候の恵みの証。
同じ北杜市にある老舗和菓子店「金精軒」では、この武川米を使ったみたらし団子が販売されています。
昼前に行くと、できたての柔らかい団子が店頭に並びます。

いまでこそ金精軒(韮崎店)にはイートインスペースがありますが、
私がこの”みたらし団子”にはまっていた頃はまだそこまでではなく、できたてが出る10~11時を狙って八ヶ岳から神奈川へ戻る途中に立ち寄り、その場で車の中で食べてから帰路についたものです。(もちろん現在もみたらし団子はふつうに販売されています)
時間が経つと硬くなってしまうため、おみやげにはできません。
でも、武川米でつくられたこのみたらし団子は、気取らず日常の中にあるごほうび。
“そこでしか味わえないおいしさ”が、何よりの贅沢だと思うのです。
限られた田んぼで受け継がれる、希少な品種
今では、武川地区のごく限られた農家さんが栽培を続けています。
生産量が少ないため、市場にはほとんど出回りません。
県内でも「見かけたらラッキー」と言われるほど。
“時短”や“効率”が優先される今の時代に、あえて手間のかかる品種を守り続けていることに、農家の方々の誇りと、土地への愛情を感じます。
おにぎりで味わう、秋のごほうび
須玉の直売所で買った新米おにぎりは、塩だけのシンプルな味つけ。
中には昆布とカリカリ梅(おそらく甲州小梅)。
この少しの塩気がよりお米の味を引き立て、
ひと口ごとに甘みが増し、噛むほどにやさしい香りが立ち上がります。


お米って、こんなにおいしかったんだ――。
そんな気づきをくれるおにぎりでした。
これから秋が深まり、山の色が変わっていく季節。
「その土地で育ったものを、その土地の水で味わう」
そんな贅沢な時間を、また八ヶ岳の台所からお届けしていきます。
☆「おいしい市場」国道141号線須玉のシャトレーゼのとなり(駐車場はつながってはいません)会計は現金かPayPay)
☆中央道上り線初狩PA峠の茶屋…ここでも武川米のおにぎりがいただけます。

参考出典
農研機構「水稲品種データベース:農林48号」
山梨県北杜市観光サイト「ほくとナビ:武川米」
JA梨北「武川米のこだわり」
金精軒公式サイト
山梨日日新聞(2023年9月30日付)
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